2021/01/04
12月14日の14時より北朝鮮帰還事業61周年フォーラムがAKUJapan、NGOモドゥモイジャ、NO FENCE、北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会、Human Rights Watch(HRW)の共同主催で行われました。昨年は新潟で行われた60周年行事でしたが、今回はオンラインで開催。それぞれの発題者がそれぞれの立場から取り組んでいる事業を発表しました。多くの内容より、要点を抜粋します。
二部からなる本フォーラムは、一部では最近話題となっている北朝鮮の強制収容所の現状を描いた映画「TRUE NORTH」の予告編の上映と、映画監督の清水ハン栄治氏より映画と今後の展望についてのコメントがありました。二部では北朝鮮の人権問題に最前線で取り組む各団体の代表からの活動報告がありました。
一部でコメントをした清水氏は、自身も横浜出身の在日コリアン2世であり、若い時から母親から在日の歴史について聞く中で、関心を持つようになり、人権関連の映像制作に携わる中で、今回の映画の撮影に至った経緯を語りました。「自身も一つ間違えていれば北朝鮮で生まれていたかもしれない、と思うと何かしらの形で北朝鮮の人権問題の解決をサポートしたいと思った」と映画作成の動機と、来年劇場公開となる映画の展望を語りました。映画は日本だけでなく、韓国での放映も視野に入れ動いているとのことです。
今後の展開について語る清水監督
第二部では、北朝鮮人権問題にそれぞれの分野で取り組んでいる人から各分野での報告があり、今回の主催団体である「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」(以下、守る会)「NO FENCE」「Human Rights Watch (以下、HRW)」「NGO モドゥモイジャ」「一般社団法人アクション・フォー・コリア・ユナイテッド」からそれぞれ代表が講演を行いました。
守る会の佐伯浩明理事長は、「守る会が取り組む帰国事業に対する重大課題」というテーマで報告しました。まず、「TRUE NORTH」を東京国際映画祭で見た感想を「非常に訴える力の強い映画。多くの国会議員に見てもらいたいので、他の人権団体と協力して実現するようにしたい」と言及しました。
日本の役割を強調する佐伯氏
また、帰還事業後10年が経った1994年に発足した守る会の歴史を振り返りながら、「拉致問題だけでなく、この帰還事業の問題を含めた人権問題において、日本が率先して韓国と一緒になって解決すべきではないかと思っている」と述べました。
同じく守る会の山田文明理事は、「帰国事業当時日本の政党の関わり方と果たすべき現在の役割」というテーマで話しました。
資料を引用しながら話す山田氏
「日本において、拉致問題では全政党が重視し、一致して取り組んでいるが、帰還事業については深刻な被害が続いている。この救済を政党の課題として取り組むという政党が一つもない」と述べ、「帰還事業で北朝鮮へ渡った人について、自己責任である、という見方をこえ、日本の政党も深く関わった問題だ、ということを見つめ直す必要がある」と話しました。
また、「帰還事業に関してはいろんな政党が協力した結果として活発に続いた。もちろん、それらの政党は初めからこのような悲劇になると考えてやったわけではないだろうが、その後の経過として大変な人道的被害が生まれている以上、そこに対して救済する責任はあるのではないか、それをもう一度検証し、この問題に対する見解を発表する必要してこそ、政治がこの問題に向き合うことができるし、そのための行動を守る会としても進めていきたい」と力強く語りました。
NO FENCE北朝鮮の強制収容所をなくすアクションの会の小川晴久代表は、「人権概念の普及と北朝鮮の強制収容所」というテーマで、主に2点を強調しました。
まず、NO FENCEという組織が、2007年頃の六者会談で、北朝鮮の体制を認める方向に動いたことに危機感を覚え「このままだと強制収容所も認めることになり、それを防がなければならない」と思ったと話しました。また、強制収容所が北朝鮮における恐怖体制の根幹であると言及し、反体制暴動を起こそうと思っても、連座制により家族が収容所に送られることを恐れて、北の若者が反乱を起こすことができない、と危機感を表しました。
北朝鮮の人権状況を解説する小川氏
北朝鮮の人権状況については「国際社会が協力し、国連中心に人権改善を求める運動が続いており、社会主義憲法の中に明記されるところまで来ている」とし、「”保護する責任”という新しい国連ドクトリンが2005年に成立し、内政干渉はだめ、という流れはなくなった。日本政府の拉致対策本部も、拉致問題だけではなく、その他の人権問題の解決を啓発する組織に変わるべきだ」と呼びかけました。
HRW日本代表の土井香苗氏は、「北朝鮮に関する国連の活動と脱北者たちの北朝鮮・金正恩を訴える東京地方裁判」というテーマで、北朝鮮の人権問題に関する国際的な動きと日本で起きている裁判について報告しました。
北朝鮮の人権問題の国際的な動きについて、2014年に国連が北朝鮮で起きている問題を人道問題だと規定したCOI(北朝鮮の人権状況に関する調査委員会の報告書)を出したことが大きなターニングポイントだとし、そこに到達するまで、日本、韓国、ヨーロッパなどのNGOなどが一緒に活動した成果だと評価しました。日本(当時は安倍政権)はこのCOIの発足に中心的に関わり、国連に報告書を出させたことは大きな成果だったが、現在、COIにおけるリーダーシップを取る場から降りた(2018年3月に10年に渡ったペンホルダーから降りた)ことは非常に残念なことだと語りました。
北朝鮮の人権問題の国際的取り組みについて話す土井氏
日本での裁判の経過については、2018年8月19日に、5人の脱北者(川崎さん含む)が北朝鮮政府を相手取って、損害賠償請求を行ったことについて話しました。最終目標は帰国者の自由往来であるこの裁判について、過去1年ほどは進んでいなかったが、ここ最近になって裁判所が前に進めようという動きがあった、ことを報告しました。
AKUJapan代表理事であり、NGOモドゥモイジャの代表である川崎栄子氏は、「日本へ入国してからの経緯と最近の韓国の動き(特にビラ散布禁止法について)」というテーマで2004年に脱北してからのこれまでの活動を報告しました。
今回のフォーラムを、5つの団体により主催できたことに感謝を表した川崎氏は、「2004年に日本に戻ってきたが、生きて日本に帰れるとは思っていませんでした。日本に帰ってきてからの人生はおまけの人生、惜しくない人生だと思い、全てを北朝鮮の問題を解決することに力を注いできた」と語り、日本に来てから、最初は他の組織に所属した後に、北朝鮮の人権問題に取り組む上で、独立が一番いいと考え、NGOモドゥモイジャを立ち上げたと話しました。
その後、HRWの土井香苗氏との出会いや、心ある弁護士の方々との出会いで大きく前進したとし、「2014年から一円の報酬も差し上げられていない中で一生懸命取り組んでくれている弁護士の方々にどうすれば感謝の意を伝えられるかいつも考えている。今、取り組んでいる裁判が勝訴した場合、全世界にこのことが報道され、協力を求められる。そのことを意図してやっている」と意気込みを述べました。
日本に来てからの活動と今後の意気込みについて語る川崎氏
また、2018年にAKUJapanの代表理事に就任したことについて、「自分自身を弘益人間にするために努力するという理念と組織が目指す、「One Dream One Korea One world」というビジョンに共感して、AKUJapanの活動を行っている。朝鮮半島の統一問題が実現されれば、21世紀の問題が解決される」と活動に対する思いを語りました。